選択 「ねぇ、もういちど考え直してみて」と礼子が言ったとき、僕は、ハッと我に返った。 「もう、どうにもならないよ」と僕は言った。 「考え直す余地はないの?」 「ない」僕はきっぱりとそう言った。 「そう」と礼子は言った。「それじゃ仕方がないわね」礼子はそのあとの言葉を続ける前に髪どめを外した。そして彼女はある選択を僕に迫った。 「あなたがこの間の仕事を受ければ、あなたはしょっちゅう私の会社に来ることになる。そうなると私はあなたのことを忘れることができにくくなる。あなたが仕事を受けるなら私は会社を辞めるわ。私が会社を辞めるか、あなたが仕事を断るか、どちらかひとつね」 「ちょっと待てよ。仕事はもう受けてしまったんだよ。それに俺が仕事を受けてからもう三日経っている。今さら断ると俺の信用はまるつぶれだ。君は俺の人生を台なしにするつもりなのか」 「いつも自分のことしか頭にないのね」礼子は煙草に火をつけた。 「当たり前だろうが、そんなこと」と僕はあえて毒気を交えて言った。ほとんどの奴らは動物をかわいがりながら、動物の肉を食べる。僕だってそうだ。自分は特別だなんて言うつもりはさらさらない。 「今回の仕事の件だけど」と礼子が言った。「あれ、私がつぶそうと思ったらつぶせたのよね」 「どうやって」 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet