黄昏ベランダ 夕美が西日の当たっている窓の方を指した。僕の部屋には少し広めのベランダがついている。そこにはデッキチェアーがふたつと、ビーチパラソルのついたテーブルセットが置かれてある。彼女がベランダに出たので、僕もそのあとに続いた。黄昏時まではまだ少し早い。彼女はテーブルに手をかけた。 「ねぇ」と夕美が言った。「海はどっち?」 「向こうの方だよ」 「そう」と言って彼女はうしろから僕に手を回した。 「本当はね、来ようかどうか迷ったのよ」 「どうして?」 「だって、私は何しに行くんだろうって。何のために行くんだろうって」 「じゃあ、なぜ来たいと思った?」 「会いたかったのよ。会っていろんなことをあなたと話したかったの」 「いろんなことって?」 「特に何っていうことじゃないんだけど、でも、この間初めて会ったときにとても興味を持っちゃったのよ、この人どんな人なんだろうって。で、とにかく会って、もっと話をしたかったの。こういう感じって初めてって言ったら嘘になるけど、でも本当に久しぶりなのよ」 「なるほど」 「それでね」と彼女が言った。僕は彼女の方に体を向けた。 「やっぱり来てよかった」と彼女が言った。そして、またあの不思議な微笑みが彼女に現れた。僕は彼女を引き寄せた。そして、僕たちはキスをした。 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet