こんな女 夕美と再会した次の週末、僕はFと会った。僕たちは湾岸に行くことにした。 Fはこれまでの淳子との経緯を僕に話した。 「あっけにとられた」と海を見ながらFが言った。「ついこの間見合いをした男と、一週間も経たないうちに婚約してしまったんだからな」 「で、君はそれでいいのか?」 「ああ、何だかばかばかしくなってな。何で自分だけがこんなに悩んでるんだろう、と。もうどうでもいいと思った。こんな女どうでもいい、と」 遠くの方に船が何隻か見えた。ときどき雲の間から覗く太陽の光を反射させながら、水面が静かに揺れていた。 「ところで」とFが言った。「君の方はどうなんだ」 僕は夕美とのことと漫画の仕事が舞い込んだことを話した。 「今回のは四十八ページももらえる。はっきり言って、俺は今までになく燃えている。どうやら俺にもツキが回ってきたらしい」 「公私共に絶好調のようだな」 「まぁな。夕美とも、もうしばらくつき合ってみようと思っている」 その夜、Fは僕の住むアパートの近くにある大きな木の下に淳子からもらった指輪を埋めた。 「ここなら大丈夫だろう」と言ってFは煙草に火をつけた。「今から何十年か経ってな、もういちどここを見に来る。そして、そのとき、まだ指輪があるかどうか確かめる」 「何のために?」 「俺がこの世に生まれ、ひとりの女を死ぬほど愛したという証のためにだ」 僕は、淳子のことをもうどうでもいいと言ったFの言葉との間に矛盾を感じたが、何も言わないことにした。 しかし、後日Fはその指輪を掘るために戻ってくることになる。 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet
メモ : FCarのナンバープレートのナンバーくらい、入れておきたいよね。。今度時間があったら入れておこうっと。。