夕美はいつも 夕美はいつも『それじゃね、おやすみ』と言ってから電話を切る。それが彼女の口癖らしい。そういえば、この間電話で彼女は言っていた。私は、仕事は仕事できっちりやらないと気が済まない性質なのだ、と。また、仕事をきちんとやり通せない人は嫌いだ、とも。 お仕事がんばってね はっきり言って、最近の僕は会社ではあまり元気がない。会社を辞めようかどうか悩んでいるからだ。先日あった社内旅行にも僕は参加しなかった。こんな退屈な奴らと旅行に言って三日間も一緒に過ごすなんて僕には耐えられそうになかった。多分、僕は社会人として失格なのだろう。そう言われても仕方がない。 三日間の休みの間、僕は漫画の仕事を進めたが、そのあと会社での居心地はますます悪くなっていた。 「お前まだそれやってるのか」いつものように所長が僕のデスクに寄ってきて言った。社内の人間は昼休みでほとんど外に出ていた。僕は社内の人間と一緒に昼休みを過ごすのを避けるためにわざと昼休みの時間をずらしていた。 「さっさと片づけてしまえ」と所長が言った。所長のいつものお決まりのセリフだったが、僕は我慢できなかった。 「所長」と僕は言った。「僕も言いたいことがいっぱいあります」 「何だ」 「僕がいちばん疑問に思うのは、仕事のやり方のことです。所長は、仕事には時間をかけず、手抜きでもいいから早く仕上げろとおっしゃる。もちろん、仕事が早く仕上がればそれに越したことがないということは僕にもわかります。でも、僕はこの仕事を始めてからまだ半年しか経ってないんです。今までも似たような業界にはいましたが、とりあえず、デザインの仕事をしたのはこの会社に入ってからです。そんな僕に、仕事に時間をかけるなと言われたって、僕としてはどうしようもないんです。手の抜き方さえ知らないんですから。最初は時間がかかったって、そこから少しずつ何かを見につけていけば、結果的には会社により貢献できると思います。少なくとも、適当に仕事を惰性で流していくようなやり方にはいったいどんな意味があるのか、僕にはわかりかねます」僕はまだまだ言いたいことがあったのだが、所長が話を聞こうともしていないのがわかった。僕は、この人に何を言っても仕方がないと思った。 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet