疲れ その夜、夕美がアルバイトしていたというバーに着いたとき、僕の疲れは頂点に達していた。僕はハイボールを飲んだあと、ドライマーティニを注文した。僕の隣では夕美が終始知り合いのバーテンや常連客たちと楽しそうにしゃべっている。見知らぬ街、初めて入るバー、見知らぬバーテン、僕はだんだんひとりになっていく。言葉さえうまく出てこない。いつもならもっとうまくやれるはずなのに。そう、あのもうひとりの自分が、知らないうちにまた僕の中に姿を現していたのだ。みじめな気持ちで会社を去っていったあのとき・・・・・・。でも、それからまた、僕はもとの自分に戻ったはずだった。それが今になってまた・・・・・・。こんな姿を夕美には見られたくない。そう、夕美にだけは・・・・・・。そんな思いに、彼女に対する疑惑の感情が重なる。急激な自信喪失。そして、疲れと前夜の不眠から来る激しい睡魔。次第に僕は意識が鮮明さを失っていくのを感じた。暗闇の底で、僕はなんとかそこから逃げ出したいともがく。 僕はドライマーティニをこぼしてしまった。僕があやまるとバーテンは、 「いいんですよ」と言った。「遠くから来て疲れてるんでしょ、きっと」 僕は笑ってごまかした。 「車のキーを貸してくれないか」と僕は夕美に言った。 「いいわよ」 「ちょっと休んでくる」 僕は彼女の車の中に逃げ込む。そして、シートを倒すと僕はそのまま深い眠りに落ちていった。 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet