つまらない野郎め その一方で、僕の中では夕美と駅で別れたときのことが繰り返し繰り返し何度も甦っていた。なぜ俺はあのときあのまま帰ってしまったんだ。何か他に手はなかったのか。 しかし、今僕はこの部屋にいる。その事実がもうどうしようもなく致命的だった。そして、スペアーキーのミステリー。僕はもう、どうかなってしまいそうだった。いても立ってもいられなかった。 僕は部屋を飛び出して湾岸公園に行った。そしてこれまでに起こったことをひとつひとつ考えてみた。しかし、どこまで考えても同じだった。何も解決しなかった。 やがて夜になったが、僕は部屋には戻らなかった。僕はここで一晩明かすつもりだった。浜辺の方からは誰かがやっている花火の音が聞こえていた。潮風がだんだんと冷たくなってくる。真夜中になって、僕はふと思った、俺はいったい今ここで何をしているのだろう。 次の夜、僕は夕美の家に電話をかけてみることにした。電話には彼女の母親が出た。夕美はいないということだった。僕は、電話があったことを彼女に伝えてもらうように頼んでから電話を切った。 夕美から電話があったのはその次の夜だった。 「あのとき、俺、混乱してたよ」と僕は言った。 「今ごろ電話してきてどういうつもり?私は何度も訊いたはずよ、本当にそれでいいの?って。言いたいことがあったのなら、なぜあのとき言わなかったの?」 「 」 「話はそれだけ?・・・・・・それじゃ」 ぶっきらぼうに受話器を置く音が僕の耳に響いた。 俺はバカだ。つまらない野郎め。死んじまえ。 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet