僕はFのうしろ姿にほんの少しためらいを感じたが、彼を止めようとはしなかった まだあるんだ。俺が家に帰ると、母親の様子がおかしかった。あわてて何かを隠したようだったんだ。それで、俺が問い詰めると、盗聴器が出てきた。俺の部屋を盗聴していたのは母だったんだ。しかも親父とグルになってな。俺の様子を探るためにやったと母は言ったが、俺は何も言わずに自分の部屋に入った。ショックだったよ、淳子とのこととも重なって。絶望的な夜だった。俺は死のうと思った。そして、カッターナイフで手首を切った。 (Fは手首の傷跡を見せた) でも、手首から流れ出した血を見ると急に恐くなった。情けない話だが。それで、自分で包帯を巻いた」 話を終えるとFはゆっくりと立ち上がった。手には例の、淳子からもらった指輪が握られていた。 「持っていたのか」と僕は言った。 「ああ、あの一週間後、掘りに行った」 「捨てるのか?」 「ああ、持っていると俺は一生これにとらわれ続けるような気がする」 このページのコンテンツを表示するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 Tweet